熊本城を後にして、どこに行こうかとなやんでいたのですが、ふと気がつくと、どうやら熊本電気鉄道の藤崎宮前駅の方に向かっていることがわかりました。それだったらということで、熊本電気鉄道に乗車してみるのも、ローカルでいいなぁと思い、藤崎宮前駅から熊本電鉄に乗車しました。行き先は決めていなかったので、車内掲示の案内板を見ながら、北熊本から上熊本行に乗り換え、坪井川公園に向かうことにしました。
2両編成のワンマンカーで始発駅の藤崎宮前駅においても、乗車券の発売されていませんでした。すべて、整理券です。シルバーと黄色と黒に塗られたステンレスカーがホームに停車しており、大勢では無いにしろ、そこそこお客さんが乗車されていました。5分ほどで出発とのことでしたので、うまい具合のタイミングで乗車できたものだと思いました。
北熊本までは2駅。途中、併用軌道区間があるのですが、こんな大きな電車が、道路を走るってのはさすがに驚きです。この北熊本が車両基地になっている様で、2面3線のホーム構成で、到着したホームの向かい側に上熊本行の一両編成の電車が停車していました。ここから、坪井川公園駅へは一駅。この上熊本への線は熊本電鉄の中でも支線に値するということに、乗車して始めて気づきました。てっきり、上熊本でJRと連絡しているので、こちらが本線なのだろうと思っていたんです。熊本はいろいろと、私の思い込みを崩してくれます。
この電車、随分古い車両で、扉の窓位置が高いところに小さいものが一つだけといった独特の形に、扇風機が回っているといったもので、こんな電車がいまもまだ現役で動いているのだと驚きでした。JRの小野田線の旧型国電ほどでは無いにしても、なかなか時代を感じさせてくれます。「東急車両 昭和32年」の銘板が目につきました。昭和32年、高度経済成長期に入るか入らないかの時代に作られた電車なんですよね。
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期待していた坪井川公園もこれまた整備中なんですが、整備の途中で放棄された感じでして、なんだかえらく雑草が生えており、ほかは運動公園といった感じで、私が考えていた写真撮影によさそうな公園とは少し趣が違う様でした。こちらはスポーツを楽しむ為の公園の様でして、熊本城は憩いを求める為の公園と棲み分けをしているということでしょうか。しょうがないので、そのまま歩いて、次の打越駅へ向かうことにしました。電車は30分に1本の運転なので、それほど少ないわけではありません。なかなか都会だなぁと思ったんですが、この打越駅を見てびっくりしました。なんか、駅と思えない・・・というと失礼かもしれませんが、絶句してしまう・・・そんな感じの駅でした。住宅地の道路脇に「電車のりば」と書かれた看板があり、そちらへ向かうと、それこそホームと呼ぶには抵抗がある様な少し高い位置に、「うちごし」と手書きで書かれた駅名標がありました。ホーム上には待合室とはいいづらい百葉箱を大きくしたような小屋があります。
一応、その待合室というか、小屋には時刻表が掲示してあり、お知らせとして、晴れた日の日中の空いている時間には、自転車の持ち込みが出来るといったことが書かれたものが貼り出されていました。
15分ほど待っていると、上熊本駅行の列車が到着。空気輸送だった様で、電車を独り占めしてしまいました。列車に掲示されてある広告なんか見ていると、一枚、クーラー対応が出来ないことに対する事情を説明したワープロ書きの文章がありました。そこには、
「毎度当社鉄道をご利用いただき誠に有難うございます。 鉄道部門は毎年赤字経営ではありますが、車内環境を改善するため、平成7年より毎年中古の冷房車両の導入を行い、平成13年で御代志〜藤崎宮間を運行する車両は全て冷房化が完了しました。
しかし、上熊本〜北熊本間を走っている5000型の車両には、冷房装置を取り付ける場所が無い・車体の強度が不足している等により、冷房化が出来ないとのことで、車両1両で冷房が可能な中古車両を日本国内探しましたが、見当たらず、 また、新車で製造しますと膨大な費用がかかり、現状の収支状況では新造することが不可能な状態です。・・・」
といったことが書かれてあり、今後もも車両を探し、冷房化を達成したいといったことが続けてありました。なんとも、いろいろと経営努力を続けているなぁと感じるわけでして、新造車を作れる第3セクターよりも、切羽詰まった感じがしました。こんな鉄道会社を応援したいと感じるのですが、いかんせん、あまりに遠すぎて、なかなか乗りにいくことが出来ないんですよね。また、来た時は少ないながらも利用させてもらおうと、思える文章でした。そうやって考えると、確かに電車で1両編成ってあんまり見たことがないなぁと思ったわけです。だいたい、1両で運転しているのって気動車が多いですからねぇ。
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途中で、お客さんをもう一人乗せ、上熊本までの短い熊本電鉄の旅は終了。上熊本駅は市電の始発駅でもあり、JRとの乗り継ぎ駅でもありますから、大きいかと思っていたんですが、先の事情から考えても、随分こじんまりとした駅でして、1面1線の小さなホームだけでした。小ささを強調するかの様にペプシの看板が駅の横に立ててあり、駅名よりも、そちらが目についてしょうがないそんな感じの熊本電鉄の上熊本駅でした。ちなみに、列車は到着しても、すぐに乗客を中にいれず、発車時間近くまでは扉を閉めたままにする様です。ホームでは1人の高校生がベンチに腰をかけ、列車を待っている様でした。
この上熊本駅。駅前には、夏目漱石の像が立っています。夏目漱石は熊本大学の講師として赴任する為に熊本にやってきたそうで、その際始めておりたった、熊本がこの上熊本駅だったそうです。
さて、時計を見ると16時前。19時すぎの飛行機ですので、18時半すぎに熊本空港に到着しておればよく、空港までのバスは所要時間が30分程度ですから、まだ時間はあります。とはいっても、中途半端に時間があるといった感じでして、資料館に向かったとしてもあまり遠くの資料館へは行けるわけなく、考えられるのは、上熊本駅から熊本電鉄・JR・市電を利用していける資料館に絞られてきます。熊本電鉄は、今、到着したばかりだというのに、またとんぼ返りになってしまうので、論外。JRは次の列車までの時間があるので、これも除外。とすると、残るは市電だけということになってしまい、とりあえず市電で繁華街へ向かうことにしました。市電の主無いで熊本シティガイドを広げて、どこかに良い時間潰しができるところが無いか探すことにしました。
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さすがは、市街地を通るだけあり、いろいろと観光できる様な場所はある様ですが、その中で目に止まったのが、ラフカディオ・ハーンの旧居です。ラフカディオ・ハーン、つまり小泉八雲のことなんですが、この方、松江に済んだ際に冬の寒さに耐えかねて、松江を去ったというところまで知っていたのですが、熊本にやってきていたというのは知りませんでした。そんなわけで、小泉八雲の旧居に向かうことにしたわけです。
市電に乗車すると、古い板張りの車両でした。なんとも古めかしい市電に乗車できたものだと、これまた得した気分。どうも、今回の旅行は列車に恵まれた感じです。熊本駅前を通る市電とは違い、こちらは辛島町あたりまで随分と空いていました。どうも上熊本当たりは鉄路は充実しているものの、経営的には苦しい、乗車率の低い地域の様な気がします。列車がたまにすれ違うのですが、その際に新型の低床車を発見。この古いのもいいけど、新しい連接タイプの新型車も乗車してみたいなぁと思いました。まぁ、その願いは叶わなかったんですが、あれは、次に熊本にくる時の楽しみにとっておくことにしました。
水道町で下車し、熊本で有名な鶴屋百貨店の裏手の小泉八雲旧居を目指します。この鶴屋百貨店は、電停一つぶんの大きさがある百貨店で、かなりの集客力を誇る様で、裏手にはタクシーがずらりと並んでいます。大阪名物の新地の二重停車の客待ちほどで無いにしてもかなり沢山のタクシーが停車していました。
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市街地の公園の横にひっそりとたたずむ小泉八雲旧居は、不思議な雰囲気です。横の鶴屋百貨店の異様と対照的なまでにひっそりとした様は、都会の中のオアシスというよりも、その空間だけタイムスリップしたかの様です。靴を脱いで中に入ると、料金収受のお姉さんに、「4時半までなんですが」と言われてしまいました。時計を見ると、4時15分。こりゃ、駆け足だなぁと思いながらも、構いませんと言って、見学することにしました。
小泉八雲の旧居なので、小泉八雲にスポットが当てられているのは当たり前なのですが、一緒に夏目漱石についても書かれていました。どうも、小泉八雲は、松江から五高の教諭として赴任してたそうですが、その後、東京大学に転職することになり、夏目漱石が後任者として赴任してきたそうです。その講義の内容をとってみても、小泉八雲とは正反対だったそうで、夏目漱石としても苦労をしていたとい様なことが書かれてありました。その対比の説明が展示されており、そのあたりに大変興味をひかれました。面白いと思ったのは、ふしぎなことに夏目漱石が小泉八雲の後任として東京大学に赴任するといったことで、夏目漱石は自分が小泉八雲を追い出している様な負い目を感じていたと書かれてありました。しかし、この二人は生前、面識がなかったとのことです。運命というのは、面白いものです。
ゆっくりと見ていたい衝動にかられたのですが、そんな時間もなく、バタバタと資料館をあとにしました。なかなか面白い展示内容で、少し小泉八雲に興味を持った次第です。次回、松江にいく時は、まだ訪れたことの無い、小泉八雲邸に行ってみようと思いました。
鶴屋百貨店前の人込みを前に、遠景の熊本城が妙に絵になり信号待ちの間に写真を撮っていると、エアポートリムジンが到着。そんなに急いで向かう必要はないものの、せっかくやってきたのだったら、乗車しないとということで、信号が変わると飛び乗ることにしました。空港に行っても別にこれといって何もすることは無いのですが、夕焼けと空港なんてものが撮れるかもと期待したわけです。 |